今日は早番だったのに遅番になっちゃって。
母ちゃんは疲れたのかもう寝てるし、何か食べるもんねーかなーと冷蔵庫を開けてすぐわかった。
母ちゃんの『例のやつ』。
母ちゃんの思い出話に出てくる煮物。
材料は油揚げと切り昆布だけ。
―昔、お金がなくてお腹が空いてね。
だけど油揚げも切り昆布も100円で買えたから、お砂糖と醤油で沢山煮込んで、汁もたっぷりにしてご飯にかけて食べたっけ。
ご飯がないときはじゃがいも。それもないときはパン屋さんからパンの耳もらってきて、浸して食べたのよ、二人で一緒に―
ご飯がないときは、のくだりはうどんだったり、餅だったりするときもある。
そして必ず最後には、ぷりぷり怒り出す。
「なのに突然出て行くなんて、許せないわあ~!」
「あっ、まあまあ、これ、美味いよ母ちゃん!」
…っていう具合に俺が毎回収めて終了。
今夜もこれ、食べるか。
俺の本当の父ちゃん、どこほっつき歩いてんだろう。
あんたの分まで、俺母ちゃん慰めてるんだぜ。