小さなおにぎり
最後の客が帰り閉店間際に片づけていると、見計らったかのようにふらっとやってきたのがバンドメンバーのドラマー君だった。
「先輩~、食いっぱぐれてお腹空きすぎて、何か食わして~…」
って言うもんだから
ひとまず、座れとカウンター席の隅に座らせた。
「そんなこと言われても、もう閉店で何もないよ」
「えー」
ブーイングの小声。
店長は買い物に出てるけどもうすぐ帰ってくる筈だ。
「あっ、ちょっと、待って」
俺は乾き物のつまみの小袋を一つ取り上げると、手で揉むように中身を砕き始める。
「何、やってんの?」
不思議そうに俺の手元を見つめる目に背を向けて、ラップしてある皿の冷や飯の上に、袋の中身を混ぜて握った。
「はいよ、アーモンドと小魚のおにぎり」
「何これっ…うまそーな匂いする」
「ご飯これだけしか残ってなかった。でも少しは腹の足しになるだろ?店長戻ってくる前に早く食べろよ」
そう言って空いた食器を洗う俺。
いただきます!と素直にかぶりつく姿には弟の姿を重ねないこともない。
でも弟のわたるはこんなに上手そうには食べないな、と思いつつ、店内に小さく流れていたBGMを止めた。